『Riders on the Storm』—雨音みたいなエレピと、深煎りの夜更かし
アーティスト紹介
今日の一曲は、USロックの“空気そのもの”みたいなバンド、The Doors(ドアーズ)から。1960年代後半にロサンゼルスで登場して、サイケデリックやブルース、ジャズの匂いまで混ぜ込んだ独特のロックを鳴らしました。フロントマンのジム・モリソンの危うい詩情がよく語られるけど、個人的にはレイ・マンザレクのオルガン/エレピの存在感がドアーズの“湿度”を決めてると思ってます。ギターが前に出るロックとは違って、鍵盤が主役級。そこに淡々としたドラムと、うねるベース。音が派手に跳ねないぶん、じわじわと部屋の温度を変えてくるタイプです。
時代背景で言うと、カウンターカルチャーの熱が一段落しつつ、アメリカの空気が少しずつ不穏に傾いていく頃。ドアーズの音は、自由の眩しさより、夜の道路みたいな“先が見えない感じ”が似合う。だからこそ、ひとりでコーヒーを淹れて、窓の外をぼーっと眺める時間に、やけにしっくりくるんですよね。
取り上げる楽曲と収録アルバムの紹介
選んだのは『Riders on the Storm』。収録アルバムは『L.A. Woman』、リリースは1971年。ドアーズ最後のスタジオ・アルバムとしても知られていて、バンドの“終わりの気配”が不思議な説得力になってる一枚です。
『Riders on the Storm』はアルバムのラストを飾る曲で、雨音のSE、エレクトリック・ピアノのゆらぎ、そしてモリソンの低い声が、最初から最後まで夜更かしのムードを連れてきます。ロックなのに、どこかジャズクラブの片隅みたいな余白がある。レコードで聴くと、その余白に針のノイズまで溶けて、部屋の空気がちょっとだけ古い映画みたいになります。
なぜその曲がコーヒーとマッチするのか。
この曲が似合うコーヒーの時間は、ズバリ“静かな集中”か、“静かな反省”。テンションを上げるというより、頭の中のざわざわを一定のリズムに整えてくれるタイプの音楽です。雨音がずっと鳴ってるせいか、外界のノイズが遠のいて、自分の呼吸とマグカップの湯気だけが近くなる。そういう瞬間、ありません?
味で言うなら、浅煎りのフルーティーさより、深煎りのビター寄り。たとえば、チョコレートやローストナッツっぽい香りのブレンド。口当たりはなめらかで、飲み込んだ後に少しだけ苦みが残る感じ。『Riders on the Storm』のエレピって、まさにその“苦みの余韻”みたいなんです。派手なサビでドカンと来るんじゃなく、じわっと染みて、気づいたら体温が落ち着いてる。
歌の内容もまた、晴れやかなラブソングとは真逆で、嵐の中を走る“旅人(riders)”のイメージが漂います。人生って、いつもコンディション最高の高速道路じゃない。視界が悪い日もあるし、ワイパーが追いつかない夜もある。そんな時に、この曲は「急がなくていいよ」とも「気を抜くなよ」とも言わず、ただ隣で雨を降らせ続けるんですよね。変に励まされないのが、むしろありがたい。
おすすめの聴き方は、部屋の照明を少し落として、カップは厚めの陶器。ドリップなら湯温は気持ち低めで、ゆっくり抽出。もしミルクを入れるなら、ほんの少しだけ。甘くしすぎないのがポイントです。雨音のSEとコーヒーの香りが混ざると、時間が“秒”じゃなく“層”で流れ始めます。スマホを置いて、レコードの片面が終わるまでだけでも、世界を小さくしてみる。仕事のアイデア出しにもいいし、逆に何も考えない贅沢にもぴったり。
築50年以上のレトロな空間って、木の匂いとか、古いスピーカーの布の匂いとか、そういう“消えかけの温度”があるじゃないですか。『Riders on the Storm』は、その空間の埃っぽい優しさと相性がいい。聴いていると、思わず深煎りの一杯をゆっくり飲みたくなる…というより、もう飲んでるのに、さらにもう一口が欲しくなる。そんな曲です。
今夜、窓の外が晴れていても大丈夫。カップの中に小さな嵐を用意して、針を落としてみてください。

