スペシャルティコーヒーと「焙煎してからの日数」のおいしい関係
同じ豆、同じ器具、同じレシピで淹れているのに、ある日は甘く、別の日はぼんやり感じる――そんな経験はありませんか。スペシャルティコーヒーは香りや風味の幅が大きいぶん、豆の状態変化も味に表れやすい飲み物です。中でも見落とされがちなのが「焙煎してから何日経ったか」。実はこの日数が、酸味の立ち方や甘さ、後味の伸びに大きく関わります。
焙煎したての豆は、内部に炭酸ガスのような気体が多く残っています。これが抽出中にぷくぷく出る現象が、いわゆる「ガスが抜ける」という状態です。ガスが多すぎると、お湯が粉の中に入りにくくなり、成分がうまく溶け出せません。その結果、味が薄く感じたり、香りが尖って感じたり、全体が落ち着かない印象になりやすいのです。特にハンドドリップではお湯の通り道が乱れやすく、抽出が安定しない原因にもなります。一般的に、浅煎りほどガスが抜けにくく、深煎りほど抜けやすい傾向があります。目安としては、ドリップなら焙煎後3日〜2週間くらいが風味のバランスが取りやすい期間。エスプレッソは圧力をかける分、もう少し落ち着いた7日〜3週間あたりが扱いやすいことが多いです。ただし「何日が正解」と決めつけるより、豆の香りと抽出の様子で判断するのがスペシャルティらしい楽しみ方です。
一方で、日数が経てば経つほど良いわけでもありません。ガスが抜けて抽出が安定してくるのと同時に、香りの成分は少しずつ弱くなっていきます。特に果実のような華やかな香りや、花を思わせる繊細さは、時間の影響を受けやすい部分です。豆を挽いた瞬間から変化はさらに速くなるため、「挽きたて」が大切と言われます。保存は、光・熱・空気・湿気を避けるのが基本で、できれば密閉容器に入れて涼しい場所へ。冷凍保存も有効ですが、出し入れで結露させない工夫が必要です(小分けして一回分ずつ取り出す、常温に戻してから開封するなど)。もし焙煎後の日数が進んで香りが弱くなってきたら、挽き目を少し細かくする、湯温をほんの少し上げる、蒸らしを丁寧にして粉全体をしっかり濡らす、といった微調整で甘さや厚みを引き出せることがあります。逆に焙煎したてでガスが強い豆なら、蒸らし時間を少し長めに取り、最初の注湯をやさしくしてガスを逃がしてあげると、味が整いやすくなります。
焙煎してからの日数は、コーヒーの「飲み頃」を左右する大事な要素です。焙煎直後はガスが多く抽出が不安定になりやすい一方、適度に日数が経つと甘さや質感が出やすく、スペシャルティの個性がはっきり感じられます。反対に時間が進みすぎると香りが弱くなるため、買った豆は焙煎日を確認し、できれば2〜3週間以内をひとつの目安に飲み切るのがおすすめです。日数に合わせて蒸らしや挽き目を少し変えるだけで、同じ豆でも驚くほど表情が変わります。


個人的には、焙煎後の変化を「豆との会話」みたいに感じています。届いたばかりの豆は香りが勢いよくて、淹れるたびにガスの抜け方が違い、少し気難しい。でも1週間ほど経つと味がすっとまとまり、甘さが前に出てくる瞬間があって、そのタイミングに当たると嬉しくなります。最近は袋に焙煎日を書き留め、同じレシピで数日おきに淹れて、味の移り変わりを記録するのが小さな楽しみです。