ブルーミング(蒸らし)が引き出すスペシャルティコーヒーの甘さ
スペシャルティコーヒーの魅力は、豆が持つ自然な甘さと透明感です。その甘さを素直に引き出すカギのひとつが「ブルーミング(蒸らし)」です。聞き慣れない言葉かもしれませんが、やることはシンプル。最初に少量のお湯で粉全体をやさしく湿らせ、数十秒だけ待つ工程です。新鮮な豆ほど内部にガスが多く、お湯をはじいてしまいます。先にガスを逃がして粉を落ち着かせることで、お湯がすみずみまで行き渡り、酸味・甘味・香りがバランスよく出てくれるのです。
ブルーミングの役割は大きく分けて二つ。ひとつはガス抜き、もうひとつは粉全体を均一に濡らすことです。やり方は簡単で、粉量の約2〜3倍(例:15gの粉なら30〜45g)のお湯をゆっくり注ぎ、粉の表面がふっくら盛り上がったら30〜45秒ほど待ちます。軽い焙煎や焙煎から日が浅い豆はガスが多いので、やや多めの湯量・やや長めの待ち時間が有効です。逆に焙煎から時間が経った豆はガスが少ないため、15〜20秒と短めで十分です。挽き目にも影響があり、細挽きはお湯が通りにくいので、ブルーミングでしっかり湿らせると過度な酸っぱさを防げます。粗挽きは水抜けが速いぶん、粉がダマにならないよう、注いだ直後にドリッパーを軽く回して均一に濡らすと甘さが出やすくなります。目安は温度92~94℃。低すぎるとガスが抜けにくく、香りが閉じがちです。なお、粉全体が同時に濡れることが重要なので、注ぎは中央から外周へ円を描くイメージで、粉の乾いた箇所を残さないようにします。
味づくりの視点で見ると、ブルーミングは「下ごしらえ」です。うまくいくと、後半の注湯が穏やかでも旨味がスッと出て、雑味が少なくなります。甘さを強調したいときは、ブルーミングをやや長めに取り(40〜50秒)、湯量は粉の2.5〜3倍、注いだ直後に軽くスワールして均一化。酸味が立ちすぎるなら、最初の量を少し増やすか、挽きを気持ち細かくして粉同士の隙間を埋め、ブルーミング後の合計抽出時間を10〜15秒ほど延ばします。苦味や渋みが気になるなら、逆にブルーミング時の攪拌を控えめにして、待ち時間も短めに。具体例としてV60なら、粉15gに対し最初40g・45秒、続いて2〜3投で合計240g前後、合計2:30〜3:00を目安にすると、ほとんどの産地で甘さと透明感のバランスが取りやすいでしょう。エスプレッソでも「プレインフュージョン」と呼ばれる似た考え方があり、少量の水で粉を落ち着かせてから抽出を始めると、突き刺さる酸や苦味が和らぎ、果実味が丸く感じられます。アイス用でも、濃いめに抽出する際に丁寧なブルーミングを挟むと、冷やしても風味がぼやけにくく、余韻の甘さが残りやすくなります。
まとめると、ブルーミングは「時間」「湯量」「均一な濡れ」の三点が肝心です。豆が新鮮で軽い焙煎ほど長め・多め、時間が経った豆ほど短め・少なめに調整。挽き目や湯温、注ぎの丁寧さも味を左右します。スケールとタイマーで基本をそろえ、香りやふくらみを観察しながら少しずつ調整してみてください。スペシャルティコーヒーの甘さは、派手さではなく、じわっと広がるやさしい満足感。ブルーミングを味方につければ、その核心にぐっと近づけます。


最近、エチオピアのウォッシュトとナチュラルでブルーミング時間を変えて比べてみました。焙煎3日目は45秒、3週間後は20秒に短縮。前者は白桃のような甘さが伸び、後者は冷めても渋みが出にくく、紅茶のような軽さが出ました。数字はあくまで道しるべですが、「粉全体が均一に濡れ、香りが立ち上がる瞬間」を見極めると、同じ豆でも表情が変わるのが面白い。小さな違いが一杯の印象を大きく動かすことを、改めて実感しました。