挽き目のばらつきがもたらす味の立体感
スペシャルティコーヒーの魅力は、透明感のある甘さと香りの広がりにあります。豆選びや焙煎が注目されがちですが、意外に差が出るのが「挽き目のばらつき」。同じミルで挽いても、粉は大小さまざまな粒が混ざり合います。この大小の混ざり具合が、お湯の通り方や味の出方を大きく左右し、カップの印象を立体的にします。均一であることが必ずしも正解ではなく、ほどよい“ばらつき”が甘さや奥行きを引き出すカギになるのです。
お湯は小さな粒から先に味を引き出し、大きな粒からはゆっくり抽出します。砂糖や塩でも細かいほど溶けやすいのと同じ理屈です。微細な粒が多いと流れが遅くなり、コクが出る一方で渋みや粉っぽさを感じやすくなります。逆に大きな粒が多いと、お湯が早く抜けて軽やかですが、薄さや尖った酸を感じることがあります。理想は、香りの輪郭を作る大きめの粒と、甘さや口当たりを支える細かい粒が、レシピに合ったバランスで同居する状態。ミルの設計によっても性格が異なり、刃が平らなタイプは輪郭がくっきり、円すい形のタイプは厚みがのりやすい傾向があります。ただしどちらが優れているという話ではなく、豆の個性や抽出方法と相性を合わせることが大切です。また、焙煎から日が浅い豆はガスが多く、お湯の抜け方が変わるため、同じ挽き目でも体感が違ってきます。
家庭でコントロールするなら、挽き目と注ぎ方をセットで考えましょう。クリアに仕上げたいなら、やや粗めに挽き、細く分けて注ぎます。蒸らしでしっかり膨らませ、粉床を大きくかき回さず、最後に軽く揺らす程度に。コクを出したいときは、ほんの少し細かくして、序盤のお湯をやや増やし、合計時間は伸ばしすぎないようにします。お湯の温度は基準を92℃前後に置き、酸が立つなら1〜2℃上げ、渋みが出るなら1〜2℃下げるのが目安。レシピは、粉15gに対しお湯240g、時間2分30秒〜3分をスタートラインにすると調整しやすいでしょう。ミルは刃のあるグラインダーがおすすめですが、プロペラ式しかない場合は短く刻むように回し、挽いた後に茶こしで極端に大きな欠片だけを軽く取り除くと、味の振れ幅が減ります。粉が舞うほど微粉が偏るのを防ぐため、挽く前に豆へ霧吹きで水を一滴なじませるのも効果的です。
味づくりの指針として、粉っぽさ・渋み・重さを感じたら「少し粗く、注ぎはやさしく、温度は下げる」。薄さ・尖った酸・水っぽさを感じたら「少し細かく、総量を守りつつ注ぎを丁寧に増やす、温度は上げる」。カップのサインに耳を傾け、挽き目と注ぎを同時に微調整することで、豆の個性が自然に手前に現れてきます。



最近、同じエチオピアを二つのミルで淹れ比べました。粒のそろいが良いミルでは香りの輪郭がきれいに立ち、柑橘の明るさが伸びやか。一方で微細な粒がやや多いミルでは、アプリコットのような甘さととろみが心地よく、余韻が長く続きました。均一さを追いすぎると平面的になり、少しの“ばらつき”がむしろ甘さを押し上げることを再確認。豆の個性やその日の気分に合わせて、挽き目の表情を選ぶ楽しさがあります。