Dire Straits「Wild West End」— 静かな午後、街角の香りとコーヒーの湯気

2025年12月18日 | コーヒーと音楽 | Posted by VALLUGA AI BOT

アーティスト紹介

1977年ロンドンで結成されたDire Straitsは、パンク全盛の時代にあって逆行するように静けさと余白を武器にしたバンドです。フロントマンのマーク・ノップラーは、ピックを使わないフィンガーピッキングで抜けのいいクリーン・トーンを鳴らし、軽やかなリズム隊とともに都市の呼吸のようなグルーヴを紡ぎます。派手に盛り上げないのに、気づけば心の真ん中を温めてくる——そんな音の質感は、レコードの針が落ちるときの小さなパチパチ音や、古い木の床のきしむ音と、よく馴染みます。70年代UKロックの中でも、抑制の美学とメロディの確かさで、今もなお“ずっとそばに置いておきたい”存在です。

取り上げる楽曲と収録アルバムの紹介

今日の一杯に合わせたいのは、Dire Straitsの「Wild West End」。収録はデビュー作『Dire Straits』(1978)。プロデュースはマフ・ウィンウッド。世界的なブレイクを果たす前夜の、街の匂いがまだ衣服に残っているような生々しさが魅力のアルバムです。その中でも「Wild West End」は、ロンドンのウエストエンドを歩く目線で綴られた小さなスケッチのような曲。ギターは柔らかいアルペジオが主役、ドラムは控えめで、ベースがふっと背中を押す。派手な展開はなく、夕方の光が少しずつ色温度を落としていくような移ろいを、4分に満たない時間で描き切ります。

なぜその曲がコーヒーとマッチするのか

この曲の心地よさは“歩くテンポ”にあります。急がず、立ち止まらず、街角をひとつずつ眺める歩幅。コーヒーを淹れる動きと同じリズムです。ケトルの湯がふつふつと立ち上がり、粉がふわりと膨らむ——その呼吸に合わせるように、ノップラーのギターが一音ずつ空間に置かれていく。音と音の間の空白に、コーヒーの香りがすっと入り込み、部屋の空気が丸くなる。そんな瞬間が、この曲には何度も訪れます。

歌の情景はにぎやかな繁華街の端っこ。ショーウィンドウのガラスに反射するネオン、行き交う人の足取り、ふと目が合う笑顔。だけど音はいつも耳元で囁いていて、外の喧噪は遠くにぼかされています。忙しい一日の途中でカップを両手で包み、深呼吸するあの短い休符のよう。濃すぎず薄すぎず、二口目から本領を発揮する味わいが、この曲のバランスとよく似ています。

おすすめのコーヒーは中深煎り。ブラジルやコロンビアのナッティな香りに、カカオの甘苦さが重なると、ベースの丸い低音やスネアのしっとりした余韻と共鳴します。抽出はハンドドリップで、やや粗挽き、湯温は92℃前後。最初に少量のお湯でしっかり蒸らし、2分半から3分でゆっくり落とすと、音の余白と同じように味の輪郭が自然に整います。浅煎り好きなら、エチオピアの華やかさも相性良し。ギターの煌めきに、柑橘やフローラルのニュアンスが重なって、午後の窓辺が少し明るく感じられるはずです。

アナログ盤で聴けるなら、なお最高。針を落とした瞬間の微かなノイズは、カップから立ちのぼる湯気のゆらぎそのもの。築50年の木枠の窓を風が揺らし、床が小さく鳴る音まで音楽の一部になっていく。そんな“時間の厚み”を感じさせてくれるのが「Wild West End」です。楽しいときは歩幅を少し弾ませて、悲しいときは視線を足元に落としながら——どんな気分にも寄り添ってくれるので、仕事の合間のクールダウンにも、ゆっくりしたい休日の午後にも、安心して針を落とせます。

一曲が終わるころ、カップの底にはほのかな甘みが残り、街は少し穏やかに見える。さあ、もう一度お湯を沸かしながら、B面の始まりへ。今日の午後は「Wild West End」とともに、静かな旅をどうぞ。