スペシャルティコーヒーと標高の関係 ― 甘さと香りを育てる高地の魔法
コーヒー豆の袋に「標高1,800m」や「標高1,200m」と書かれているのを見かけることがあります。数字だけでは味が想像しにくいですが、実はこの標高は甘さ、香り、酸の質感といった大切な要素を示す“味の地図”のようなもの。標高が高いほど良い、という単純な話ではありません。育つ速さや実の成熟、豆の密度が変わることで、どんな味を目指すか、どう淹れるかのヒントが詰まっているのです。
標高が高い場所は昼夜の寒暖差が大きく、実はゆっくり熟します。急がず時間をかけて糖分が蓄えられ、細胞がぎゅっと詰まるため、豆は密度の高い“ハード”な質感になります。こうした豆は、透明感のある酸、重なる甘さ、澄んだ後味が出やすく、花の香りや柑橘のニュアンスが現れやすいのが特徴です。例えばエチオピアの高地では、ジャスミンやベルガモットのような香りに、明るい酸と蜜の甘さが同居します。一方、標高が低めの畑では気温が高く生育が早いため、豆はやや軽い密度になりやすく、ナッツやチョコを思わせる丸い風味、しっかりしたコクが出やすくなります。もちろん、土壌や雨の量、日陰の木の有無、さらに「ウォッシュト(洗って乾かす)」「ナチュラル(果実のまま乾かす)」といった精製方法でも味は大きく変化します。標高は“方向”を教えてくれる目印で、単独の決め手ではありません。
淹れ方のコツにも標高は役立ちます。高地由来の密度が高い豆(たいてい浅〜中浅煎り)は、成分が出にくいので、お湯はやや高めの温度(92〜96℃)から試し、挽き目は少し細めに。新鮮な豆なら蒸らしを30〜45秒とり、ガス抜きをしっかりすると酸と甘さの輪郭が揃います。反対に、標高が低い産地の豆(中煎りが多い)は、90〜92℃のやや低めの温度で、挽き目は一段階粗くして、ゆっくり注げば苦味が落ち着き、ナッツやチョコの甘さが前に出ます。抽出比率はまず1:16(粉1に対し湯16)を基準に、明るさを出したいなら1:15、軽やかにしたいなら1:17へ調整。もし“思ったより薄い”と感じたら挽きを細かく、“重くて鈍い”なら温度を1〜2℃上げるのが手早い修正です。袋に標高1,500m以上とあれば柑橘や花、1,200m前後ならチョコやナッツ、とラベルの風味メモと合わせて選ぶと失敗が減ります。例外として、低地でもナチュラル精製で熟した果実味が強く出ることや、高地でも深煎りなら酸が穏やかになることは覚えておきましょう。
まとめると、標高は甘さの育ち方、香りの細やかさ、酸の表情を左右する“見えないレシピ”です。買うときは標高、精製、焙煎度の三点をセットで見て、淹れ方は温度・挽き目・比率を小刻みに動かす。これだけで、あなたのカップは一歩ずつ理想に近づきます。数字に惑わされず、方位磁石のように標高を使い、目的の風味に向かって舵を切ってみてください。



先日、グアテマラの1,800mと1,300mのロットを飲み比べました。前者は青りんごと白い花、冷めるほどに透き通る甘さ。後者はヘーゼルナッツとミルクチョコで、口当たりが柔らかく安心感のある味わい。同じレシピで淹れると前者が細身に感じたので、温度を94℃、挽きを一段細く、蒸らしを長めにしたら甘さが開きました。数字を手がかりに小さな調整を重ねると、カップの表情が見事に変わる。その瞬間が、コーヒーの一番のご褒美だと感じます。