スペシャルティコーヒーと焙煎後の熟成(ディガス)の考え方

2025年10月19日 | コラム | Posted by yasuzi

「焼きたてが一番」と言われがちですが、スペシャルティコーヒーは焙煎直後よりも、少し“休ませた”頃に味がまとまり、甘さや透明感が引き立つことが多い飲み物です。焙煎後に豆から二酸化炭素が抜けていく過程を、よく“ディガス(熟成)”と呼びます。今日は、この見えない時間の働きをやさしくほどき、家庭でもできる飲み頃の見分け方と扱い方を紹介します。

焙煎直後の豆は、焼きたてのパンのようにガスを多く含み、内部がふんわりしています。コーヒーの場合、この二酸化炭素は香りを空気から守る“盾”である一方、抽出時にはお湯をはじき、味を取りにくくする“壁”にもなります。若すぎる豆で淹れると粉が大きく膨らみ、お湯が通りにくくムラが出て、酸っぱさや薄さにつながりやすい。エスプレッソではクレマは派手に出ても、液体が荒れて苦味と酸味が分離しがちです。逆にガスが抜けすぎると、香りが弱まり、平板に感じます。そこで“飲み頃の窓”を意識します。目安として、浅煎りは焙煎後5〜14日、中煎りは3〜10日、深煎りは2〜7日あたり。エスプレッソは同じ焙煎度でも+3〜7日ほど長めに待つと安定しやすいです。もちろん産地や精製、焙煎機やバッチサイズで変わるので、袋に記された焙煎日や推奨期間を参考にしつつ、自分の好みに合わせて微調整するのが最善です。注ぐ前の“蒸らし”での膨らみ方や、香りの立ち方を日ごとに観察すると、好みのタイミングがつかめます。

保管は敵を3つ覚えれば十分です。空気、光、熱。この3つを避ければ熟成は穏やかに進み、飲み頃が長持ちします。ワンウェイバルブ付きの袋はガスを逃がしつつ外気を防ぐので、そのまま使ってOK。開封後はしっかり空気を抜いて密閉しましょう。大袋は小分けが基本。短期間で使い切れない分は冷凍が有効です。豆のままを1杯分〜数日分ずつ小袋に入れてしっかり密閉し、使う時だけ取り出します。結露を防ぐため、袋は閉じたまま室温に戻すのがコツ。挽いた粉の冷凍は香りの逃げ道が増えるので避けたいところ。抽出の微調整も効果的です。鮮度が高いほどお湯を弾くので、やや細挽き、蒸らしを長め(30〜45秒)、注ぎはゆっくり。抜け気味なら少し粗挽き、湯温はやや低めで甘さを狙います。エスプレッソは若い豆なら粉量を0.5〜1g控えるか、同じ挽きで抽出量を少し増やすと、荒さが和らぎます。逆に抜け気味なら粉量を増やす、もしくは挽きをやや細かくしてテンションを戻します。

焙煎後の熟成は、豆の個性を最大にする“見えないスイッチ”です。日数、保管、挽き目、注ぎ方を小さく合わせるだけで、同じ豆でも表情が変わります。焙煎日からの変化をメモし、同じ豆を数日に分けて淹れ比べると、自分にとっての最適なタイミングが自然と見えてくるはずです。

最近、軽い発酵感を持つエチオピアの浅煎りを9日目にドリップしたところ、初日の派手な香りとは違い、落ち着いたジャスミンと白桃のような甘さが長く続き、思わず時間を忘れました。一方、コスタリカのハニーは5日目の丸い質感が好み。天気や湿度でも体感が変わるのがまた面白い。慌てず一呼吸、“待つ”こともおいしさの技だと改めて感じています。